富士フイルムホールディングス株式会社
楽々WorkflowIIで従業員約1,000名が開発に参加する「現場主導のDX」を実現
海外子会社にも展開し、迅速な意思決定と強固なガバナンスを確立
富士フイルムホールディングス株式会社(以下、富士フイルムHD)は、海外子会社を含むグループ各社で分散していた稟議*1や汎用ワークフロー*2を統合するため、楽々WorkflowIIを導入。経営企画部とICT戦略部が共同で稟議/汎用ワークフローシステム「FAST」を開発し、現場主導で2,800種類の汎用ワークフローを構築した。住友電工情報システムのサポートと楽々WorkflowIIの標準機能により短期展開を実現し、承認リードタイムを30%削減。グループ各社の申請業務の統合が進み、海外子会社を含む約270社、ユーザ72,000名以上を包括したガバナンス体制を確立した。
目次
メール中心の申請や複数のシステムの並立が課題
海外子会社を含めた申請業務の統合を目指した
富士フイルムHDは、「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」を掲げる富士フイルムグループの持株会社で、連結子会社数約270社、連結従業員数72,000名以上を束ねている。中期経営計画「VISION2030」では、2030年度における売上高4兆円、営業利益率15%以上を目標に掲げている。
その達成に向け、同社が注力している取り組みの一つがDXだ。イノベーティブな顧客体験の創出と社会課題解決を掲げた「DXビジョン」に基づき、「製品・サービス」「業務」「人材」を三本柱とした変革を推進している。顧客やパートナーが富士フイルムHDと接する現場や、従業員が日々活動する現場などを起点とする、「現場主導のDX」が大きな特徴となっている。
その代表的な事例の一つが楽々WorkflowIIの導入である。富士フイルムHDは2021年から海外子会社を含むグループ全体に申請業務のシステム統合を進める計画に着手した。この取り組みについて経営企画部の神山氏は次のように語る。
「従来、当グループの申請業務には大きくふたつの課題がありました。一つが稟議に関する課題です。当グループにおいて稟議は、グループ内の意思決定プロセスにおける規程に則って、申請・承認を進めるものを指しますが、一部でシステムを使っていたものの、運用の中心はEメールでした。とくに海外子会社はEメールのみで稟議を行っており、申請フォームも統一されていませんでした。その結果、申請の不備や漏れが発生しやすい状況となっていました。もう一つが汎用ワークフロー*2です。2019年に富士フイルムビジネスイノベーションを完全子会社化して以降、国内グループ会社のシステム統合を進めていましたが、汎用ワークフローに関しては複数システムが並立する状態が続いていました。総計3,600種類にも及ぶ申請業務が複数の仕組みで運用され、保守コストの増大や業務効率低下を招いていたのです」(神山氏)。
申請業務にまつわるこれらの課題を前に、富士フイルムHDは、グループ内での稟議と汎用ワークフローを統合する新システムの導入を決定。ガバナンス強化と業務効率化の両立を図ろうとした。
国内製品の安心感とグローバル対応力を評価
約1,000名が参加した市民開発で導入を加速
新システムの導入にあたって、富士フイルムHDは国内外のワークフローシステムを10製品以上調査し、最終候補の4製品で機能表を用いた比較検討を行った。
その結果、選定されたのが楽々WorkflowIIだった。ICT戦略部の鈴木氏は選定の理由を「国内製品でありながらグローバル製品の強みも備え、ワークフロープラットフォームとして非常に優秀だったことが決め手」と振り返る。
「楽々WorkflowIIは承認経路の柔軟な設定や通知メールのカスタマイズ、さらにサポート体制の手厚さなど、国内製品だからこそ備わっている機能が数多くありました。その一方で、多言語対応や豊富なAPI提供といった、グローバルに展開する上で不可欠な特長も兼ね備えていました。加えて、ユーザ自身が容易に申請書を作成できるなど、市民開発を強く後押しする機能も整っていました。たとえば、申請書や経路の設定のために、設定者のPCに専用エディタの導入は不要でWebブラウザだけで設定が進められるという点です。こうした国内製品とグローバル製品の双方の強みを併せもつ点は、最終候補の4製品の中でも楽々WorkflowIIだけの特長であり、『現場主導のDX』を掲げる当グループにふさわしいと評価しました」(鈴木氏)。
こうして楽々WorkflowIIを選定した富士フイルムHDは、稟議を所管する経営企画部と汎用ワークフローを所管するICT戦略部の共同でプロジェクトチームを組成。2021年下半期から導入作業に着手した。
このとき、とくに意識したのが「方針の徹底」だった。世界各地に拠点を展開し、複数の事業領域をもつ富士フイルムグループにとって、共通システムの維持管理には多大な労力を要する。もしグループ会社ごとや事業部ごとに独自の運用を認めてしまえば、その負担は一気に増大する。そこで、本社方針として、稟議に関しては独自設定は原則認めないと定め、グループ共通の教育マニュアルや問い合わせ体制を約1年かけて構築。システム維持の効率化と運用ルールの統一を徹底した。
同時に、現場を巻き込んだ汎用ワークフローの市民開発も推進した。サードパーティのガイダンスツールを活用して、楽々WorkflowIIの操作方法や申請書作成をグループ全体で共有し、現場が主体となったシステム展開を後押しした。
その取り組みは功を奏し、楽々WorkflowIIはグループの隅々にまで浸透した。実際に市民開発によって約1年で2,500種類の汎用ワークフローが現場のユーザ自身で作成された。当初3,600種類あった汎用ワークフローは統廃合により2,800種類まで削減し、うち300はシステム部門で作成し、残りを約1,000名による市民開発で作りきった。これはまさに、富士フイルムグループが目指す「現場主導のDX」を象徴する取り組みとなり、ワークフローシステムの展開を大きく加速させる要因となった。
稟議/汎用ワークフローシステム「FAST」をグループ全社に展開
4つのシステムを統合し、ランニングコストを大幅に削減
現在、富士フイルムグループ全体の約270社で、楽々WorkflowIIで構築した稟議/汎用ワークフローシステム「FAST」が運用されており、ユーザ数は72,000名以上にのぼる。主にEメールで運用されていた申請業務はFASTに集約され、稟議の親会社承認についてもグループ全社がシステム上で申請を行う形に統一された。さらに、複数のシステムに分かれていた汎用ワークフローもFASTに集約され、グループ全体でのシステム統合が大きく前進した。
導入効果も目覚ましい。鈴木氏はFASTの開発によってグループに生じた変化を次のように説明する。
「まず、大きかったのはコストの削減効果です。従来、並立していた4つのシステムをFASTに統合できたことで、ランニングコストはもちろん、保守運用にかかっていた人件費や管理コストも大幅に削減できました。さらに、稟議をFASTに移行したことで申請フォームが統一され、申請プロセスそのものが効率化しました。その結果、承認リードタイムは約30%削減され、意思決定のスピードがこれまで以上に加速しています。加えて、これまでバラバラに運用されていた申請業務が全社的に統合されたことで、海外子会社を含めたグローバルレベルでのガバナンス体制もいっそう強化できました」(鈴木氏)。
鈴木氏は、こうした成果が得られた背景には、楽々WorkflowIIがもつWebAPI連携機能の存在が大きかったと振り返る。楽々WorkflowIIは豊富なWebAPIを備えており、富士フイルムグループでも派遣管理システム、勤怠管理システム、Web会議システム、プロジェクト管理システムなど20以上のシステムとの連携を実現している。これらの連携はユーザビリティを高めただけではなく、日常業務における利便性の向上にもつながり、結果としてシステムの定着と業務効率化をさらに後押しすることにつながった。
今後は海外子会社への展開を強化
個人情報保護など各国事情を踏まえた導入が成功のカギ
今後、富士フイルムHDはFASTの展開をいっそう進め、申請業務の集約をさらに拡大していく計画だ。海外子会社への展開にあたっては、個人情報保護に関する法制度の違いなど乗り越えるべき壁も少なくない。しかし同社は各国との調整を継続し、導入範囲を広げていく方針を明確にしている。神山氏は、海外拠点を多く抱える企業にとっては、各国の法制度や商習慣を事前にいかに把握しておくかが成功のポイントになると指摘する。
「とくに稟議では個人情報などの機微な情報を扱います。しかし、その取り扱いは国ごとに法制度が異なり、欧州のように近年急速に厳格化している地域もあります。そのため、楽々WorkflowIIを展開する際には『どの業務を移行するのか』『記入項目に機微な情報が含まれているか』をあらかじめ精査しておくことが重要です」(神山氏)。
楽々WorkflowIIの各種機能を活用し、「現場主導のDX」を推進してきた富士フイルムHD。その取り組みは国境を越えて広がり、今やグローバル規模での変革へと広がりを見せている。
*1:富士フイルムHD において稟議は、グループ内の意思決定プロセスにおける規程に則って、申請・承認を進めるものを意味する。 *2:富士フイルムHD において汎用ワークフローは、給与口座変更など上長、部門長の確認が必要なものを意味する。
神山 陽一 氏
鈴木 徹 氏
- 本事例中に記載の組織名や肩書き、数値、固有名詞等は取材時点(2025年7月)の情報です。